性格の悪そうなBLOG

いちいち長いですが中身は特にないです。

今更ディスクレビュー:メレンゲ「星の出来事」

大学生の頃、訳もなくバイト帰り大声で歌いながら明治のチョコレートの匂いが漂う工場の横を泣きながら通り過ぎた時、犬の散歩中だったおじいちゃんに「がんばれー!」と声を掛けて頂いた思い出がある。当時の僕は就職も一瞬で決まり、卒論も順調そのものと無傷の状態で、一体何を頑張れば良いのか解らなかったけれど、とても嬉しくなり何故か泣きながら帰った、という謎そのものカオティックと評して差し支えないその思い出の曲が今回今更レビューで取り上げる2006年の4月に発売されたメレンゲの「星の出来事」のリードトラック「カメレオン」にはある。


デビューから今日に至るまで律儀に追いかけてしまう別れた後も度々小金を工面したりと世話を焼いてしまうダメ男の元カノ的な気分にさせる絶妙な距離感と、最も頻繁にライブを観た時期が25歳過ぎてからというソースは俺な事実や客層の年齢層の高さからしても疲れた心にとんでもなく効く何かを持っているバンドであるメレンゲの意外にも1stフルアルバム。(ミニアルバムはリリースしてた)
「星の出来事」というタイトル通り、あらゆる出来事が歌われた素晴らしい作品だと思う。

アルバムの一曲目の「カメレオン」の焦燥感、何者にもなれない自分への苛立ち。失っていく純粋さへの恐怖の中で作り上げた偽物の自分。就活生なんか聴いたらボロボロ泣くんじゃないかと。社会人になってからも何度もこの曲で泣いている。シンバルが飛び込んでくるタイミングと軽やかにループする鍵盤が妙にチリチリした感情を煽るから凄い。刺さる。
「彼女に似合う服」は名曲。穏やかな昼下がりの様な温かい曲に、付き合ううちに些細な事を強いてしまって彼女の事がきちんと見れてなかった男性の失恋ソングとなっております。
「どうでもいいやり取りが でも今日で遂に宝物 別れ際、驚いたそんな服を着ていたんだな」という失った切なさをこんな優しさに満ちた曲に乗せる鬼の所業。もう性格の悪さが光る名曲としか。
「フクロウの恋」もサラサラした失恋ソング。曲がスルスル手からすり抜けていく感覚が強くて曲の印象すら薄いという意味で僕の中で名曲。
「春に君を想う」は「今日君が笑う、それだけで春だ」と言い切る最強にキュートな一曲。一方で「憧れに避けられている 当たり前の今日が終わる」なんて影をしっかり落としてサビで春満開ぶちかますんだからその30秒くらいの盛り上がりが凄まじいポップネス。伸びやかなピアノに呼応するように伸びやかに歌っておいて裏声わざと掠れさせる演出も可愛すぎて最早憎い。ボーカルクボさんのドヤ顔が浮かぶ。
そこからゆったりと「アオバ」に。二人で歩む未来への希望を歌う、このアルバムでは三曲くらいしかない成就系の恋愛曲。リア充という単語が出会った当時あれば間違いなくリア充爆発しろソング。でも希望に満ちてるのに弱気になっちゃう所が憎めない!とか思ってしまう女子のハート鷲掴みの猛禽類な曲だと評価している。
「8月、落雷のストーリー」は女の子を落雷に例えて、急に光ってすぐいなくなると歌っていて、ドラムが落雷を表現するような叩かれ方する部分がとても気持ち良くて好き。親方!空から女の子が!みたいな。これ聴きながら恋してえな、とかぼやきつつ「逃げろ舘ひろし」という舘ひろし樹木希林から逃げ惑うフリーゲームを延々やってた。
「東京」は、もう会えない人の渦という東京の表し方が僕の東京観と完全に一致。キラキラしつつ機械的な印象もあって丸ノ内の昼休みとかこんなイメージ。
その都会から生み出された「ゴミの日」はキラキラの残骸が弱々しく光っている様な質感で、それらが輝きを無くしても世界が普通に回っていく切なさを感じる。基準を設けてどんどん切り捨てていくから街は綺麗なんだろうな、的な。「粗大ゴミの中で君と手を繋ぐ、使えそうもないアンテナで君と遊ぶ」というフレーズに胸がキュンとする。
そんな街でそんな事気にする訳もなく、普通に恋愛してる「バスを待っている僕ら」は完全に片想い。相手はこっちの気持ち知ってて、でもスルリとか掴めない。こんな片想いの仕方身に覚えあり過ぎて辛い。こんな気持ちで毎日何気ない風に好きな人に接している子が沢山いると思うと全員焼肉に連れて行きたい。
「へび坂」も好きな気持ちのせいで複雑になってしまい、別れてしまったんだろうなと思わずにいられない。軽快な鍵盤とギターが坂を駆け下りていく。拍の使い方が面白くて、意中の女の子の足音の様で彼女の思い出が夕日に溶けて消えていく。
ラストの「すみか」だけは海辺での愛おしいやり取りが現在進行形の只々温もりが伝う曲。

大体片想いか別れているという甘酸っぱいというより酸っぱいアルバムで、フロントマンクボ氏の性格の悪さに感動すら覚える。どうせ性格悪いとか言われるならこんな風になりたいわ。
歌詞がジクジク(ジワジワより侵食される感がある響き)来るせいで音の感想がついつい薄くなりがちなのだけれど、大前提として曲がとても良い。ポップで少し寂しげ。心の隅に引っ掻き傷を作り、それを撫でる様な曲を色々な表現で作り上げる。天才的。
何より疲れたOLのハートキャッチっぷり。クボ氏が本当に悪い男ならそれで財を築ける程のツボの抑え具合、いや最早人心掌握術、歴史に名を刻む恋愛詐欺師にすらなれそうな感性と音楽的な才能に感謝してやまない作品だと思う。
ライブ後のお姉様方の肌ツヤが開演前のソレと違う。凄い衝撃的な光景だとライブ観る度に打ちのめされる。

比較的レンタルショップにも置いてある作品だと思うので、25歳過ぎて恋愛もご無沙汰、毎日に何と無く疲れたお姉様方に是非手にとって頂きたいアルバムです。きっとレンタルしたのに買いに行くと思うな、僕は。
そんで梅酒とか飲みながらベランダで「恋してえ」とか言って隣人に聞かれたら良いと思うね。

またー。