性格の悪そうなBLOG

いちいち長いですが中身は特にないです。

さよならジャミロ先輩。

高校生の時、僕は「普通科ならすぐ辞めてしまうだろう」と言われ、妙にしっくりきて公立工業高校の建築科に進学した。
当時はまだ工業高校に専門一次と言う三教科だけの先行試験があり、上から何十人かは世間の受験生より早く受験ストレスから解放されると言う画期的な仕組みがあって、それでさっさと合格する為だけに僕は冬休み死ぬほど勉強して結果的に合格する。
普通科に進学したら辞めると言われた事に反論が無かった訳じゃないけれど、結果的に良かったと思う。
あまり勉強に関心が無い生徒たちの中で兎に角学年1位を譲らない男子生徒がおり、ソレかっこいいじゃんと彼に勝つ為だけに勉強する様になり、実際勝つ事もあったり楽しかったし、そのおかげで大学ひいては就職まで上手くいったのだから。
そういう意味では僕に普通科NGを下した先生を褒めてやっても良い。
その先生はいつも何故たくさんある色の中でそんな形容し難い色を選んだと問いたくなるジャージを着ていた。
いつも目の動きが負えない濃い色の眼鏡を掛けており、何された訳でも無いのに凄い嫌いだった。大事な事で無くても二度言っておきたいくらい凄い嫌いだった。
 
その先生の話はどうでも良い。
その学校には一人の先輩がいた。ある委員会で知り合ったその先輩を仮にジャミロ先輩としよう。
ジャミロ先輩は僕が初めて得た音楽好きの先輩で、基本的には大好きだった。
ジャミロ先輩のジャミロたる所以は、ジャミロクワイが好き過ぎて頭おかしいという事からである。
兎に角どんなタイミングでも隙あらば、むしろ隙など無くてもジャミロクワイを捩じ込んで来る前のめりの姿勢に僕は基本的にドン引きしていた。
「風邪か?ジャミロクワイ聴けよ!」を筆頭に「あ、ジャミロクワイ聴く?」「俺彼女出来たんだよ!ジャミロクワイ聴けよな」など。
パワーストーンのおかげで一万円札の風呂に美女と入る感じの広告ばりのテンションでジャミロクワイを布教してくるスタイルはブレる事を知らず、彼が卒業するまでの2年間は正直辛かった。
今思えば先輩も音楽好きな後輩と言うポジションに納まる人材が僕しかおらず、単純に嬉しかっただけなのかも知れない。
でも僕は自分が嫌われているんじゃないかと思い、会うのを次第に避ける様になり、ジャミロクワイなんて名前も見たくないと思うまでになってしまった。
卒業後、就職したジャミロ先輩からは時折メールが届き、僕は音楽の話題を避けて一応返事をする、と言う付き合いを続けてきた。
 
徐々に疎遠になり、存在すら忘れてしまった2013年冬。ジャミロ先輩からメールが届いた。
「俺結婚するわ!」
全員に向けて送った訳でなく、僕に向けての挨拶の後にそう記されていた。
そう、ジャミロ先輩は僕を嫌っていた訳ではなかったのだ。
信じられない熱量でジャミロクワイを推し続けていたのも、単純に可愛い後輩を想っての事だったのだ。
僕はそんなジャミロ先輩を恐れ、嫌われていると思い込んでいたのだ。
そう考え至った途端、ジャミロ先輩へ質問したい事を閃いた。
「最近何聴いてるんですか?」
お祝いの言葉の後に、それだけを添えた。僕とジャミロ先輩を繋いだジャミロクワイと言う名の絆を、僕は確かめたかった。
その返事を聞けたら、今すぐiTUNESカードでジャミロクワイをダウンロードするよ、という願いにも似た気持ちで返信を待った。
 
返信は5分と待たずに返ってきた。
「One Directionかなぁ」
 
One Directionってあのイギリスのオーディション番組から出て来たバステッドみたいなアイドルグループでしょ?
本土で凄い視聴率出して、日本にもショップ出来た程人気の!
一時期、御堂筋線にショップの袋持ってる女の子がよくいたけどベースボールキャップで黒髪ストパーの何木メイサですか?くらい目ヂカラばっちりの可愛い女の子ばっかりで印象的だったなぁ。
女子力と戦闘力の両立をテーマに論文書けそうな人達に支えられてるグループを先輩が推してるなんてビックリですよ。
そっかーあはは、流石先輩は最先端だわ。やっぱり憧れちゃうなぁ。


そこはジャミロクワイだろお前空気読めや。
  
絶望にも似たがっかり感に打ちのめされ、軽く人間不信にもなりかけたけれど、どうやら奥さんとなる女性の趣味であるらしく聴いているらしい。
何とも微笑ましい。ジャミロクワイの件を僕は許さないけどな。絶対に。
結婚を報告してくれる程度に好いてくれている先輩に対して、一年前に結婚してましたとか流石に言えなくて困っている。
ジャミロクワイの件への報復だと自分の中で結論付けるか、未だに葛藤している。
ちなみに彼から得た情報の中で唯一役に立ったのはジャミロクワイがグループである、というものである。
僕もいつか誰かにとってのジャミロ先輩の様になりたい、と今では思っているが実行に移すかと言われたら全身全霊でNOである。
尻すぼみであるけれど、事実は小説よりなぞ早々起こらないと言いたい。
電撃文庫でも読んでろ。

ありがとうジャミロ先輩。
そして、さよならジャミロ先輩。
 
 
本日のBGM
リンクすら貼るの億劫なのでググって下さいお願いします。