働き方改革の影響なのか、単純に従業員のエンゲージメント向上と作業効率化を図ろうという魂胆なのか、オフィスの入館可能時刻が定められた影響で、その時間よりも微妙に早く出社していた自分は毎朝8分ほどオフィスに入れない暇な時間が発生してしまうという事態に陥ってしまった。
この8分というのが曲者で、電車の乗り継ぎ的に一本遅らせるとトータル15分ほどの影響を生み出し、尚且つ通勤ラッシュの前髪を掠めてしまう為に混み始めるという難しいタイミングなのだと、試しに遅らせてみた結果痛感した。
偶然にも快適通勤の尻尾を掴み、通勤ラッシュの前髪を回避していたという謎の幸運。幸せはいつだって失って初めて幸せだと気付くと中川翔子さんも歌っていたなぁ、と思うなどした。
それから数日のうちは会社の前でボンヤリ立って時間を潰して出社するという手段を取っていた。
それにも早々に飽きたので、折角なので散歩でもと会社の近所にある神社に毎朝お参りする様になった。
別に神様が云々、持論や信仰がある訳でもないが、タイムイズマネー、無料で毎朝時間を潰させて貰うのも悪いので1〜10円くらいを賽銭箱に入れ、形ばかり拝んでいた。
お金を入れてそのまま去るのも様式美的にどうなんだという事で拝んでみるものの、特に願いも思い付かず、とりあえずその日の定時退社を願ってみるものの、定時退社は願うものではなく勝ち取るものだという謎に武闘派の発想を持ち合わせており全然祈願に身が入らない。
もの凄く所在も自信もなさげに拝まれて神様も困惑していたかも知れない。
数日前、その話を同僚にしたところ「じゃあ私の恋愛成就を願ってきてくれ」と頼まれ、また別の友人からも同様に縁結び祈願を依頼され、何故か突然に自腹で恋愛成就祈願代行業を始める事になった。
神様が居住地も知らない誰かの恋愛を代行で頼みに来た人間の言葉に耳を貸してくれる余裕があるのか僕には解らないが、欲しいものはないけどスーパーで買い物をしたら参加券を貰ったから福引に参加するくらいのノリで続いている。
妙な無欲さで所在なさげに参拝していた頃よりも、誰かの願いだとしても目的がハッキリしているというだけで賽銭に向かう自分の歩みの力強い事、まるで野球選手のホームラン確信歩きの様であり、賽銭確信歩きと勝手に名付けて悠然と進む、こんな雑な信仰心が自分の中にあったなんてね、と思うなどしている。
そんなだから早速バチが当たったのかも知れない。
朝も早く、休日出勤の為に歩いて駅に向かっていたらカラスに襲われた。
頭を掴まれる事、3回。
背後から鳴き声と共に攻撃を繰り出され、何か知らんが逃げなければと走らされ、掴まれた頭皮からは血が滲んでいた。
鉄の爪、アイアンクロー、ストレス注入ヘッドマッサージである。
ただでさえ休日出勤という地獄に自主的に向かっている中で更なる不幸を提供されて、これはもう今日はこれからも理不尽な出来事に見舞われ続けて最後は倒れてしまう映画の様な一日になるのではと怯えてしまった。
そもそも休日出勤の僕よりも気が立っているカラスが存在するというのがヤバ過ぎないか？と思ったけど、「カラス 襲われる」でネット検索をかけたら、丁度今頃が子育て真っ最中で警戒感が凄まじいらしい。
確かに急いで駅に向かう中、何か小さいカラスの横を通ろうとした記憶がある。恐らく我が子の脅威になると思った親カラスの怒りを買ってしまったのだろう。
子供の命を守ろうというんだから、そりゃ休日出勤より張り詰めてるわなぁ、と納得するに至るが、こちらには敵意も無かったので痛めつけられ損という気がしてしまう。
「電動自転車もチャイルドシート乗せてる人が一番運転荒いし、親って大変なんだな」という謎の納得の仕方をしたものの、ただでさえ仕事で頭が痛いのに物理的にも頭が痛くなってしまうという二重の苦しみで朝のスタートを切る様に強いられてしまい、朝マックにバナナキャラメルパイを追加し、カントリーマアムのチョコまみれを追加するという本場アメリカも真っ青な重量級モーニングで何とかやる気の機嫌をとって仕事をこなした。
折角痛い目に遭わされたのだから、あのカラスの子が無事に成長して両親の頑張りが報われて欲しいと思って、帰り道に神社で願った。
あと自分用にまた襲われません様に、とも別口で願った。
前者は5円、後者には20円を投じた。
綺麗事を述べても我が身可愛さが滲んでおり、それもそれでちょっとガッカリするが、一応被害者なので仕方がない。カラス、許してくれ。
またー。
