梅田の阪急百貨店で開催されている英国フェアに行ったら、超目玉(買うのに60分行列に並ぶ)のスコーンを提供してくれるロンドンのホテルかサロンのパティシエが「スコーンよりガンダムが好き」と日本語でメッセージを寄せてくれているのが掲示されていて「こんだけ目当てに人が並ぶスコーンを生み出す人でもそんな事言っていいんだ!」と結構な衝撃だった。
真似したいものの、そんな成果物に関係しなくてもキャラクターがプラスに加味される要素が自分にあるか考えると捏造だとしてもそうそう思いつかない。根っこの部分で本当にそうであるか、そうなる素養のある人間にしかフレーズは降りてこないのかも知れない。何て柔らかい神の啓示だ。
もっと荘厳なものであると思い込んでいたけど、なんて言うか時と場合によるのかもなぁと考えながらフィッシュ&チップスを食べてクラフトビールを飲みながら英国における紅茶の扱いなどの講話を聞くなどした。
それはそうと昼過ぎから4時頃までの日差しの中にしかもう夏を思い起こさせる熱もなくて、そんな時でさえ空気はちょっと涼しかったりするので散々に舌打ちをし、悪態をついた夏に「あの時はごめんね」と謝りたい気もする。人間余裕がないとダメだし、ただ季節に対して謝りたいみたいなのもそれはそれで人間として不安定過ぎやしないかと考えてしまい、掛ける声を決めきれないまま10月も半分を過ぎてしまった。
擦りまくられて跡形も残っていない様な話のはずが無限に湧いてくる「1年って過ぎるのめっちゃ早い」が今年も観測され始めている。自分もそう思うし実際に話している。そうこうしている内にあっという間に年末になってしまうだろう。
当たり前の事を当たり前にこなしてるだけでもそんな感じなので、意識なんてなくても生活をするという意味では立派なプロなんだなぁと思うなどしている。
あとは観たり聴いたりした色々についての雑感をばーっと書いておきたい。
OGRE YOU ASSHOLE/自然とコンピューター
相変わらずミニマルかつ抽象的な言葉でボンヤリとしているうちに広大な宇宙に誘われてバッと真理を突き付けられる気分になる作品を生み出してくれるなーと感心してしまう。聴く瞑想、とは言え割とシステマチックに分別されている様な印象もあって、工場のラインや巨大倉庫のリフトなんかを眺めている感覚の様な、選別って眺めていると不思議な高揚感を伴うよねと思わせるアルバムだった。
かなり音源としての尺を短めに設計してそれとは違う高揚感をライブで引き出すパターンを彼らはずっとやってると思うし、またライブに行きたいなと聴く度に感じている。
大森靖子/THIS IS JAPANESE GIRL
前半の煌びやかな騒々しさ、後半の圧倒的纏まりにタイアップばっかのアーティストのベストアルバムでしたっけ?と思ってしまう程の作品。まあ現在地としての最高傑作という意味であればベストアルバムなので間違っている訳でもなく。とにかく曲がなぁ、いいですよね。令和型90年代後半。
表現としては自身の現在地が大森さんの狙いとかなり離れた所にいるので刺さって抜けねぇ、みたいな感じでは全然ないんだけど「ミス・フォーチュンラブ」の『運命じゃないから好き 汚れてきたからかわいい』における恋愛が人間をヒロイン通り越してヴィランにしちゃう感じとかとても好きで、一番は「幸内炎」の『そんなんじゃ僕の 僕や僕を守れやしないさ 愛を忘れたら 君に会えるのに 他の忘れ物ばっか気にしちゃう』で本当それ過ぎるので何も言添えられない。この曲が曲順的にもど真ん中なので勝手に大きく流れを変える分岐点みたいな意味でも凄く好きだ。
「幸」という文字を印象的に掲げている割に勝敗表につけたら数字上は負け越しているんじゃないかという割合はアルバムトータルで「幸せってそんな感じするよね」と言われてる様な感覚になるというか、何かしらのレートが用意されてる生活から開き直って脱した先に生を見出せる、マジで個の幸せを召喚するコストとして恋愛をカードゲームみたいに生贄に捧げてる気がする一枚だった。
大森さんは僕の中で藤崎竜先生の封神演義の最終巻の妲己みたいな存在になっている。生身にこだわり抜いている大森さんが米津玄師とは違うアプローチで仙界に達してる(あくまで僕の中で)の面白過ぎる。
それにしても、全員に刺さる言葉を発掘するのは金を掘り当てるみたいなもので大体出揃ってるんだなと大森さんや次に書いている米津玄師に触れて思う。どちらもとんでもなく磨き、鍛え上げられた言葉の天才で、発掘というよりも発明だったり、精密なコントロールでターゲットの琴線をぶち抜くみたいな言葉選びが多い様に思う。(大森さんのSickS ckSとか米津氏の毎日とか)
それを下げたい意図で書いている訳でなく、発掘に匹敵する素晴らしい能力だと言いたいんだけど言葉って改めて難しいな。こんだけ長く生きても全然上手くならない。
米津玄師/LOST CORNER
大森さんに書いたタイアップばっかのアーティストのベストアルバムって割と方向が定まらない、百貨店のハイブランドのフロアみたいな印象になりがちなんだけど米津氏のアルバムは毎回コンセプトアルバムみたいな強度で窓際で頬杖ついててマジで意味分かんない。凄過ぎる。ほんと仙人過ぎる。
タイアップの数々をしれっと乗りこなす様は哪吒みたいな印象を受ける。ちゃんと世界観に寄り添う、という時点で世の中のアーティストはかなり凄いと思うんだけど、米津氏は自分の解釈でもって「そこに米津玄師がいたら」という視点でリリースしてくるのでアルバムになってもコンセプトっぽさが崩れないのかなと思う。
「LADY」やら「M八七」やら好きな曲が相変わらず好きで、中でも「Pale Blue」の『酷く丈のずれたオートクチュール 解けていくボタンの穴 こんなちぐはぐな舞台はもう諦めたい なのに エピローグの台詞が言えなかった』が色んな楽曲に取り揃えられた各種喪失感によって際立って泣いてしまう。
その色々を「LOST CORNER」の『なあきっと消えないぜ 目に映るもの全て 夢も希望も不幸も苦悩も全て まあそれはそれで』と総括してしまうのも感動的な受け入れ方だと思う。
人の姿とそれを見て認識して初めて「目に映るもの」になる全てを「まあそれはそれで」と包容とも投げやりにも取れてしまう言葉で締めるのが本当に好きだ。
HAPPY END(映画)
少し未来の日本で依然として差別があって、監視社会で締め付けられる事で、本来は少しずつ疎遠になっていったはずの友情が互いの目に見えるくらいハッキリと終わってしまうまでを描いたような映画だった。
自分が抱いた社会への憤りが正当なものである、何とかしたいという気持ちに行動がついていかない悔しさに迷った時に一見何も悩んでいない友達が隣にいたら腹が立ってしまうってあると思うし、大人になった今ではそれが八つ当たりだと解ってるんだけど、解らない子供が気付くまでみたいな話だと思う。
自分でも問題が解けないのに人に求めて主体的に動けないうちに八つ当たりした相手が助けてくれて、自分の空っぽさに打ちのめされるみたいな。
文字にするとかなり苦々しいんだけど、真っ青に輝いてて、爽やかなのが本当に不思議な映画だった。
またー。